はじめに スポーツが社会とつながる時代近年、Jリーグのクラブがスタジアムの外で、地域の学校や福祉施設、農業の現場などに積極的に関わっている姿を目にする機会が増えました。これらは、単なるボランティア活動やイベントではなく、Jリーグ全体で推進されている「シャレン!(社会連携活動)」という枠組みのもとで行われている取り組みです。「シャレン!」とは、「社会連携」を意味する言葉で、クラブと地域が一緒になって社会課題に向き合うことを目的としています。2018年にJリーグが制度化して以来、すべてのクラブが独自のテーマで地域社会と連携しながら、さまざまな活動を進めています。シャレン!の目的と定義シャレン!は、Jリーグ公式サイトによると、以下のように定義されています。「Jクラブを起点に、地域社会と連携しながら社会課題を解決する活動」教育・福祉・防災・環境・農業など、明確な社会課題に取り組むことクラブだけでなく、自治体・企業・NPO・学校など多様な関係者が連携すること地域社会に対して持続的な価値を創出することつまり、シャレン!とは「クラブが何かをしてあげる」のではなく、「地域とともに創る」ことを目的としています。取り組みは地域ごとに多様化シャレン!活動の大きな魅力のひとつは、各クラブが自らの地域の課題や特性に応じたユニークな取り組みを展開している点です。松本山雅FC:農業×福祉の「大豆プロジェクト」松本市を拠点とする松本山雅FCでは、「大豆プロジェクト」と呼ばれる取り組みが注目を集めています。このプロジェクトでは、地域の農業委員会や福祉施設、クラブのアカデミーなどが協力して、耕作放棄地を活用して大豆を栽培し、加工・販売までを行います。障がいのある方々が栽培や作業に関わることで就労支援にもつながっており、農業、福祉、教育を包括する地域ぐるみの連携モデルとして高く評価されています。川崎フロンターレ:障がい者の就労体験支援川崎フロンターレでは、障がいのある方がホームゲームの運営準備に参加する「就労体験支援プログラム」を実施しています。荷物の運搬、設営作業、スタッフとの連携など、試合開催を支える現場での実務体験を通じて、参加者は働くことの楽しさや自信を得ることができます。この活動は川崎市や地元のNPO、企業などと協働しており、「共に支えるスタジアム」の実現を目指しています。ヴァンフォーレ甲府:スタジアムの環境配慮ヴァンフォーレ甲府は、スタジアムでの環境負荷を減らす取り組みとして、2004年からリユース食器の導入を行っています。来場者に繰り返し使える食器を提供することで、ゴミの削減やリサイクルの推進を図っており、地域の環境活動とも連動した施策となっています。このように、「スポーツの場を通じた社会との接点」を意識した活動が、クラブの日常に組み込まれつつあります。シャレン!とスポンサーシップの新しい関係シャレン!の活動は、クラブと地域社会だけでなく、企業との新たな関わり方を生み出すきっかけにもなっています。これまでスポーツクラブにとってのスポンサーは、広告掲出やユニフォームロゴなど、主にマーケティング的な側面での協力関係にとどまりがちでした。しかし、シャレン!においては、企業が持つ技術や人材、ノウハウなどを地域の課題解決に活かす「共創パートナー」としての参画が広がっています。たとえば、食品メーカーが食育事業に協力したり、通信会社が遠隔支援に関わったりと、企業の事業領域を生かした連携が進んでいます。こうした協働は、企業にとっては社会的意義と地域との接点を生む機会となり、クラブにとっては活動の幅を広げる支援基盤となります。単なる資金提供を超え、地域とクラブと企業が一体となって価値を生み出すことができる、それがシャレン!が生み出すスポンサーシップの新しい姿といえるでしょう。見える化を支える「シャレン!アウォーズ」これらの取り組みを広く可視化し、共有する場として、Jリーグは「シャレン!アウォーズ」という表彰制度を設けています。全国のクラブがエントリーし、ファン投票や専門審査を経て、毎年複数の事例が選出・表彰されます。2025年のアウォーズでは、前年度の約3,700件の地域活動の中から選ばれた6つの取り組みが紹介されました。この制度により、活動がクラブ内外で共有されやすくなり、地域とのつながりがさらに深まっています。しかし他方で、こうした社会的活動の成果を「どれだけの価値があったのか」と定量的に把握・説明することは依然として難しいという課題もあります。地域貢献や共生社会の実現といった「良いこと」は直感的に理解されやすい一方で、行政やスポンサーに向けてその意義を数字で示す必要がある場面も増えています。社会的インパクトの可視化を支える「SROI分析」そこで注目されるのが、SROI(Social Return on Investment)分析です。SROIは、活動によって生まれる社会的な便益を金銭的価値として換算し、投入された資源に対してどれだけの「社会的リターン」が得られたかを明らかにする評価手法です。たとえば、クラブが行った食育イベントや障がい者の就労支援活動が、参加者の生活の質を高めたり、地域の福祉コストを削減する効果を持っていた場合、その効果を「1円あたり○円の社会的リターンがあった」といった形で説得力のある数字で示すことが可能になります。NextStairsが提供できる価値 SROIでシャレン!を強化する私たちNextStairsは、このSROI分析を通じてシャレン!の社会的価値を“見える化”するお手伝いができます。地域活動の成果を具体的に評価・報告したいクラブにとって、SROIは以下のようなシーンで活用可能です:自治体やスポンサーへの説明資料に説得力を持たせたいアウォーズやCSRレポートで他クラブとの差別化を図りたい活動の改善に向けたデータドリブンなフィードバックを得たい定性評価にとどまりがちな社会連携活動の成果を、SROIという定量的評価のレンズで再定義することにより、クラブと地域の取り組みを一層意義深く、継続的なものにすることができます。まとめ スポーツクラブの新しい姿シャレン!を通じて、Jリーグのクラブは「ただ勝つための存在」から、「地域とともに歩む存在」へと進化しつつあります。スポーツの力を活かして社会課題に向き合うこの取り組みは、地域とのつながりを深め、クラブの存在意義を大きく広げるものです。さらに、自治体や企業との連携を通じて、従来のCSRやスポンサー関係を超えた共創型のパートナーシップが各地で生まれています。その価値を持続的に高めていくには、活動の意義を客観的に伝える仕組みも欠かせません。NextStairsでは、こうした社会連携活動の価値を定量的に見える化する支援も行っています。地域とクラブが築く関係性を、数字と物語の両面から伝えていくことで、シャレン!の意義と広がりは今後さらに深まっていくはずです。(参考:シャレン!Jリーグ公式ページ 松本山雅FC 「大豆プロジェクト」川崎フロンターレ「就労体験支援プログラム」ヴァンフォーレ甲府「リユース食品による環境配慮」シャレン!アウォーズ2025 受賞紹介 )<文>野口周(Spoship編集部)