PSGの2021/22seasonと2024/25seasonを財務面から比較フランスの首都パリに本拠地を置くパリサンジェルマン(PSG)はここ十数年で欧州での確かな地位を確立してきました。2021/22シーズンのパリサンジェルマン(PSG)は、ネイマールやキリアン・ムバッペといった世界的スター選手に加え、リオネル・メッシやセルヒオ・ラモス、ジャンルイジ・ドンナルンマといった世界的スター選手を一挙に獲得し、大きな話題や経済効果を呼びました。しかし、欧州チャンピオンズリーグでは早期敗退(ベスト16)に終わり、財務面では巨額の赤字(-4億€)を計上しました。一方、2024/25シーズンでは、メッシ、ネイマール、ムバッペというスター選手たちがすでに退団していたにもかかわらず、チームは初の欧州制覇の偉業を成し遂げ、収益は過去数年間で最高の数値となる見通しです。では、ビジネス面でより優れているのはどのシーズンだったのでしょうか?21/22シーズンはコロナ流行真っ只中だったため補正を加えた上で、収益性や経営モデルの観点から比較していきます。また、この記事は24/25シーズンの財務に関するデータを公式が発表する前に作成されているためいくつかの項目は”見通し”にはなりますが各数値は事実に基づいたものになっております。収益と支出の比較:2021/22 vs 2024/25コロナ補正の意味2021/22シーズンには、公式には約4億ユーロという巨額の赤字が報告されましたが、その背景にはコロナ流行による影響や他の外的要因が大きく関係しています。二者を比較する際、条件に大きな差異があると公正な比較にならないためコロナ流行で大きく影響を受けた項目(特に収益の部分)で補正を行いました。2021/22シーズンコロナ補正放映権収入放映権収入は基本国内放映権固定分とUEFAからの配分から成り立ちます。国内の放映権に関してはLeague1がスペインのメディアプロという会社と契約を結んでおり年間で約8億€の契約を結んでいましたが、同企業が突然契約破棄をしLeague1は仕方なくAmazonと年間2.5億€という価格で契約を締結しました。公式のデータ(補正前のデータ)として21/22シーズンはPSGが放映権収益として約1.4億€、内訳として国内分は0.5億€、UEFAからは0.9億€得ている点から、国内に関しては配分を同じ割合で考え、UEFAからの収益は同じ値を使うと契約破棄がなかった場合の放映権収益(補正後)は0.9+8.0×0.2=2.5億€となります。放映に関してはコロナによる制限はほとんどなく、契約会社の契約に関して修正する必要がありました。マッチday収益主にチケット収益を指します。21/22シーズンはフランス政府が2試合に入場人数制限を設けましたが残りのPSGホーム戦22試合は全て47000人近く(ほぼ満員)の観客が入っていました。ヨーロッパは日本に比べコロナの規制が緩かったようです。①値段の安いゴール裏や上層席の数がパルクデプランスは大体合計48000席中6割ほどである②値段が高く見やすい低層席の数が48000席中4割ほどであること ③①の席は通常の試合では一席平均が50€であり重要な試合では100€④②の席は通常の試合では一席平均が100€であり重要な試合では200€以上の点を踏まえると各々1試合収益はi)通常の試合(相手は別に強くない) 48000×0.6×50€+48000×0.4×100€=336万€ii)重要な試合(相手が強豪やUCLなどの重要な試合) 48000×0.6×100€+48000×0.4×200€=672万€それぞれi)が16試合(うち2試合が5000人制限)で残り8試合がii)であることを踏まえると336万€×14+336万€×2×5000/48000+672万€×8=1.02億€であったと考えられます。よってマッチday収益は1.0億€であったと修正可能です。商業収入主にグッズ売上、スポンサー広告収入等を指します。 21/22シーズンはリオネルメッシをはじめとするスターの加入に伴い商業収入は増加しましたがコロナがなければさらなる収入を得ることができたと考えられます。特にユニフォーム売上、広告収入の減少は大きな損失を与えました。①ユニフォーム売上PSGのスポンサーディレクターはコロナの影響がなければ40%ユニフォームを多く製造できていたと言及しています。この年のメッシのユニフォーム売上が100万枚でしたがこの想定をもとに考えると140万枚のユニフォーム売上があったと考えることができます。ユニフォーム1つあたりが約150€だから150€×100万=1.5億€となり、140万枚売れていたとすると150€×140万=2.1億€であり約0.6億€の補正が考えられます。②広告収入広告収入はコロナ禍にも関わらず3.1億€と前シーズンの2.7億€から約13%の増加をみせました。ただ、コロナ流行による企業の広告出稿の抑制による影響は大きく、この点を考慮に入れる必要があります。UEFAが発表しているデータによると20/21シーズンから21/22シーズンを比べると広告出稿を含む商業収入は平均46%減少しているとされています。しかしPSGの場合は反対にメッシ加入によって広告収入が増えておりコロナの影響がなければより多くの収入があったと考えられます。広告出稿は前年度において商業収入の57%(2.7/4.73)であることを踏まえると減少割合の57%は広告出稿であると考えられ、広告出稿は46×0.57=26%の抑制があったと推定できます。この値を用いて、3.1(21/22シーズン補正前データ)÷(1-0.26)=4.1より4.1億€の収入があったと考えることができます。よって、約1億€の増加が考えられます。上記2点より商業収入に関しては合計1.6億€の増加が考えられます。よって、2.1+4.1=6.2億€の商業収入があったと補正できます。2024/25シーズン見通し放映権収益24/25シーズンからリーグ1の放映権契約会社はDAZNとbelN sportsに変更され、年間6.6億€の契約となりました。このうち約20%がpsgの取り分だと考えられリーグ1におけるpsgの放映権収益は6.6×0.2=1.32億€であると考えられます。また、UEFAチャンピオンズリーグでの決勝進出はさらなる利益をもたらし、これは①参加賞金②成績ボーナス③ノックアウトステージ進出ボーナス④UEFA係数ランキングボーナス(psgの欧州サッカーでの立ち位置)⑤market pool(放映権収益の一部)収益 の5つの和で考えられます。それぞれUEFA発表資料によると①1862万€②10勝して2回引き分けたことから10×280万€+93万€×2≒3000万€ ※280万€/1勝 93万€/1分 負けはボーナス少ないため考えない③5250万€④PSGが上位なことにより2000万€⑤2000万€なお決勝進出が実現したことにより③はボーナスを全て得ることができて合計して5250万€となります。これらを全て合計すると1.4億€となります。したがって放映権収益は合計2.72億€になると考えられます。一般的にUEFAからの賞金は放映権収益に含んで考えることが多いため今回は放映権収益の中に含めました。マッチday収益21/22シーズンコロナ補正で行った方法と同じ手法を用いて24/25シーズンのマッチday収益を考えるとホームで行われた全27試合中、重要な試合は14試合あったことがわかりました。したがって同じ算出方法で収益を算出すると、672万€×14+336×13≒1.4億€と考えられます。24/25シーズンはUCLやフランスカップでの躍進に伴う試合数の増加により大きな収益を出すことになりました。以上より、24/25シーズンのマッチday収益は1.4億€と考えられます。商業収入ユニフォーム売上では前シーズンからの変化点として大黒柱でありスターであるキリアンムバッペの退団が影響をもたらしました。前シーズンである23/24シーズンの商業収入は4.5億€ほどであり、ムバッペ退団によってパリシャンゼリゼ通りではユニフォームの売り上げが90%減になるほどの影響を受けました。しかしながらチャンピオンズリーグでの躍進したことによりユニフォームの売り上げは増加したとのことです。商業収入の大部分を占めるスポンサー収益が大きく変化したわけではない点(スポンサーの会社や契約の大きな変更がない点)とムバッペ退団によるグッズ周辺の売り上げ減少がおきたという点を2点ふまえてあまり大きな減少はないと考え4.0億€とすることにします。この点に関しては参考になるデータがかなり少なかったことから他の項目に比べ信頼度は低いです。公式の発表が待たれます。支出21/22シーズンは公式のデータに基づいておりコロナの影響はあまり考えられずそのままこの数字を利用します。24/25シーズンは前シーズンの数値を元に算出しており、スカッド人用にムバッペの退団以外大きな変化がないことから前シーズン人件費から1人で大きな割合を占めるキリアンムバッペの給料を差し引いた値となっています。主要な財務面での比較1. 人件費比率(給与の総収益における人件費の割合)2021/22:7.29 ÷ 9.3 ≒ 78.4%2024/25:6 ÷ 8.1 ≒ 74.1%UEFAは人件費率が70%になるように推奨しています。この結果では、補正を行うと24/25シーズンの方が理想的な形に近いと分析できます。2. 営業損益(粗利)営業損益は一般に総収益から選手給与、代理人手数料、移籍金償却を引くことで求められます。2021/22:9.3 - 7.29 - 1.47 - 0.39 = 0.15億ユーロ2024/25:8.1 - 6 - 1.5 - 0.35 = 0.25億ユーロこれに関しても補正を行うとわずかながら24/25シーズンの方が健全であると言えます。結論最終的な損益は21/22(補正前)が-4億€、21/22(補正後)が-1億€、24/25が-1.5億€という試算となり、コロナ補正を踏まえると大きな乖離は見受けられませんでした。ただし、非公開情報等諸条件によるブレやコロナ補正の多寡により今回の試算と実績とに乖離が生じる可能性はあります。チーム作りの点で見ると、チームとしてまとまりがあり勝てるチームをつくるのか、それともすごく強くはないけど話題性のあるチームをつくるのか、ビジネス的成功の軸をどこに置くか、異なる考え方があるかと思います。勝てるチームを作れば当然勝ち進むことが多くなり試合数も増えマッチday収入や放映権収益が増加し、それに伴い注目度もアップしてファンが国内外問わずでき、相乗効果によって翌シーズンや翌々シーズンには大きな商業的利益を生み出すことのできるチームとなり上記のように財務面での成長もあると考えられます。それが実際24/25シーズンのPSGです。PSGは何年も赤字が続いており、石油王がオーナーであることから実現できているビジネスです。資金は有限であり、このまま赤字が続けば手を引くことも考慮に入れるでしょう。24/25シーズンは確かに飛躍のシーズンでしたが1.5億€の赤字を見込んでいます。しかし、24/25シーズンの欧州制覇は世界中に間違いなく多くのファンを獲得し、このチームの選手たちの一部は2、3年のうちにムバッペなど世界的スター選手に並ぶ選手たちとなります。そうすれば、商業収入は21/22シーズンのコロナ補正後に並びはしないものの、近づくことが考えられます。それにより赤字の解消が進み、理論上は黒字経営へと軌道修正することも可能になるでしょう。21/22シーズンも人件費次第では黒字もあり得ましたがその可能性は低く、これ以上の純利益の増加がみられないことやスター退団後のチームとしての基盤や方針が構築できないことから将来的な黒字見込みや持続可能性が低いと考えられます。したがって、この記事では24/25シーズンの方がビジネス(財務面・チーム作り両面)としては優れていると結論づけます。近年はレアル・マドリードやバイエルンミュンヘンのようなメガクラブでも既存のスター選手を獲得するより、スター選手になる見込みのある10代から20代前半の有望選手を獲得するといった傾向が見られています。PSGはかつての既存のスター選手依存を脱却し、彼ら同様にクラブとしての将来性がある経営にシフトしたと考えられます。スター選手を集めてチームを構成するいわゆる”銀河系軍団”型の戦略はすでに終焉を迎えつつあります。より持続可能で勝ちを重視したチーム構成をする方向に変わりつつあると言うことができるでしょう。(参考: Paris Saint-Germain Finances 2023/24Paris Saint-Germain Finances 2021/22Ligue 1 rights picture in disarray as LFP and Mediapro agree to cancel dealPSG-ticketsMessi financial boost to PSG revealed: Shirt sales, sponsorship and social media breakdownUEFA financial report 2021/22DAZN & BeIN Sports Secure Ligue 1 Soccer Rights In France Through Eleventh-Hour Deal Worth A Reported $540MDistribution to clubs from the UEFA Champions LeagueLife after Messi and Neymar: PSG’s flagship store revenue plummetsUefa introduces 70% squad cost rule as part of new financial regulationsUEFA Financial sustainabilityKylian Mbappe salaryFotmob )<文>野口周(Spoship編集部)